"words" の検索結果 40 件

  1. WORDS.M

    WORDS.M

    一陣の風がぼくらの頭上をかすめ、モミの老木の枝をたわめた。「ウィロー・ジョーンだ」祖父が言った。強い魂を葬送する風だった。ぼくらはそれを目で追った。尾根の木々の梢をいっせいになびかせ、山腹を駆けくだってゆく。カラスの群れが驚いて空に舞いたち、またひとかたまりに集まって、カアカア鳴きながらウィロー・ジョーンとともに山の斜面をなだれ落ちていった。祖父とぼくはすわったまま、ウィロー・ジョーンが山並...

  2. WORDS.L

    WORDS.L

    * *ルドンはていねいに闇を描いて微細な闇に放ってやる。紙の中の黒だというのに夜の闇よりも微細な闇のなかへ、微細な傷でできた闇のなかへ、微細にふるえている闇のなかへ。***悲しげなひとつの顔が沼の花となったのか、沼の花が悲しげなひとつの顔となったのか、夕暮れが近づききみは紙のなかの夜をのぞきこもうとして白い手をさし出す。飯島耕一『ゴヤのファーストネームは』より「ルドン」一部*この詩人も深淵か...

  3. WORDS.K

    WORDS.K

    秋来ぬと 目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる藤原敏行『古今和歌集』より *もうすぐ8月が終わろうとしている。まだまだ残暑は厳しいのだが、やはり朝晩は涼しくなってきた。秋に向かって、季節は急速に移り変わろうとしている。この季節になると、この歌を思い出す人は多いのではないのだろうか。日中、汗を拭きながら恨めしく空を見上げる。そこには衰えを知らない太陽が、じりじりと照りつけている。外...

  4. WORDS.J

    WORDS.J

    学校の図書庫のうらの秋の草黄なる花咲きし今も名知らず晴れし空あおげばいつも口笛を吹きたくなりて吹きてあそびき石川啄木 『一握の砂』―「煙」―より *中学生時代に愛読したこの本は、国語の授業で啄木の短歌を習ってから買ったのだったと思う。ところどころに○がつけてあるのは、気に入った短歌の目印だろう。中でもこの二つは、淡々とした郷愁が漂っていて、今でも当時のままに○を付けたい歌だ。そういえば、帰り...

  5. WORDS.I

    WORDS.I

    そこでぼくは悪夢の中空に自分自身の紙凧をあげることをやめないかわり、それがぼくの肉体=魂の引力圏外に出ることなく、つねに回収可能であるようにするところの管理体制をととのえねばならぬ、という結論にみちびかれた。そしてぼくは、悪夢の深淵の底にたどりついた時、または悪夢の中空の最上限まで浮かびあがってしまった時、ひとたばの麻のごときものを把握してこよう、と考えた。他人の目にそれはみすぼらしく汚らし...

  6. WORDS.H

    WORDS.H

    夏のさわやかな夕、ほそ草をふみしだき、ちくちくと穂麦の先で手をつつかれ、小路をゆこう。夢みがちに踏む足の、一あしごとの新鮮さ。帽子はなし。ふく風に髪をなぶらせて。話もしない。ものも考えない。だが、僕のこころの底から、汲めどつきないものが涌きあがる。さあ。ゆこう。どこまでも。ボヘミアンのように。自然とつれ立って、――恋人づれのように胸をはずませ……ランボオ 金子光晴訳『Sensation』*...

  7. WORDS.G

    WORDS.G

    花 は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは。雨に対ひて月を恋ひ、垂れこめて春の行衛知らぬも、なほ、あはれに情深し。咲きぬべきほどの梢、散り萎れたる庭などこそ、見所多けれ。歌の詞書にも、「花見にまかれりけるに、早く散り過ぎにければ」とも、「障る事ありてまからで」なども書けるは、「花を見て」と言へるに劣れる事かは。花の散り、月の傾くを慕ふ習ひはさる事なれど、殊にかたくななる人ぞ、「この枝、かの...

  8. WORDS.F

    WORDS.F

    そして私はいつかどこかから来て不意にこの芝生の上に立っていたなすべきことはすべて私の細胞が記憶していただから私は人間の形をし幸せについて語りさえしたのだ谷川俊太郎『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』 より 「芝生」*これも学生の頃愛読した1冊だ。当時友人に悩みを打ち明けられ、たまたま読んでいたこの本にちなみ、夜中にその友人に向けてメモ書きのようなものを綴ったことを思い出す。結局友人に...

  9. WORDS.E

    WORDS.E

    ぼくは行きの電車の中で、孤独な自分を励ますかのように、 「樹木」が人為的な創造物の間から「まだいるからね」 と声を発するかのように、その緑の光を世界に向け発しているのを感じた。 柳田洋二郎『犠牲』―サクリファイス―わが息子・脳死の11日柳田邦男なんということだろう、あの『マタイ受難曲』のアリア「あわれみ給え、わが神よ」のむせび泣くような旋律が部屋いっぱいに...

  10. WORDS.D

    WORDS.D

    雲たちのためにぼくはおまえにそう言った海の樹のためにぼくはおまえにそう言った波の一つ一つ葉の中の小鳥たち親しい手たち顔となる目あるいは風景となる目のためにぼくはおまえにそう言った、すると眠りがその目に色をもつ空を返してくれる、ポール・エリュアール安東次男訳『愛すなわち詩』より「最初に」

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